第一声を間違えることがない

いろいろな声優さんと一緒に仕事をさせてもらっていますが、僕が一流だなと思う人たちの共通点として挙げられるのが、「第一声の音が的確」ということです。

 たとえば「おはようございます」という台詞があったとします。一流の声優は、この「おはようございます」の第一声の音、つまり「お」の音が素晴らしいのです。「お」の音に、喜び、悲しみ、怒り・・・・・・そのときの感情が込められているのです。

 これは、簡単なようでかなり難しいです。ついでに言っておくと、これは俳優に当てはまりません。俳優は、第一声にこだわる必要がないからです。逆に、それにこだわればこだわるほど、俳優の場合は相手役と絡めなくなり、不自然になる可能性があります。

 ここが、声だけで勝負しなければならない声優と、俳優の違いなのです。

 声優は、第一声で的確な感情の音を出さないと、あっという間に台詞が終わってしまいます。「おはようございます」にかかる時間など、ものの1秒ですから。

 さて、二流の声優になると、第一声で的確な感情の音が出せなくて、何とかして語尾で的確な音を出して調整してきます。たとえばこの場合だと「おはようございます」の「ます」の部分を、嬉しそうな音だったり、悲しそうな音だったり・・・・・・。まあ、何とかごまかしたというところでしょう。

 このタイプの人たちが、声優の中では一番多いので、逆に一流はよく目立つのです。

 

 

 余談ですが、アニメのアフレコで台詞をパクったときも、一流は違います。

 パクるとは、声優のしゃべった台詞が作画の口の動きより早く終わってしまって、作画の口がパクパクしてしまうことを言います。もちろん、NGです。

 ですから、声優さんは同じ台詞を、もっと長くかけてしゃべらなくてはなりません。そんなとき、一流の人たちは、全体の台詞をまんべんなく長くしますが、二流の人たちは、語尾だけをうんと長くして調整しようとします。

「おはようございま――す」

 これはちょっとお安い。

 本来なら、全体を物理的に長くする技術だけではなく、長くというより、ゆっくりしゃべらなければならないモチベーションを、台本から改めてつかむことがベストではありますが、なかなかそんな人はいません。たとえば、相手を説得するとか、言いにくそうに言うとか、思い出しながら言うとか、相手の顔色をうかがいながら言うとか・・・・・・ゆっくりしゃべれる状況を、台本から探るのです。

 まあ、それはともかく、大事なのは第一声!

 頭の音を嘘つかないことです。
ミュージックバンカーのレッスンでもこのことについては言われています。